黒く笑え

文芸評論家川本直のBlog

『新潮』12月号に「楽園からの逃亡――イーヴリン・ウォー『ブライヅヘッドふたたび』をめぐって」を寄稿しました。

『新潮』12月号に「楽園からの逃亡――イーヴリン・ウォー『ブライヅヘッドふたたび』をめぐって」を寄稿しました。

 吉田健一訳の『ブライヅヘッドふたたび』に出会ったのは高校生の頃。それ以来この小説を何らかの形で論じられないか、ずっと考えてきましたが、19歳の時、佐藤亜紀氏の『ブライヅヘッドふたたび』に関するエッセイ「英国的にチャーミングなるもの」を読んだことで、具体的な着想を得ました。今回、それ以来の課題をようやく果たしたことになります。

 ゼロ年代の心の支えはイーヴリン・ウォーマルセル・プルーストといった古典を読むことだけで、私は徹底して反時代的に生きてきました。よって、この批評はゼロ年代批評とは無縁の保守的な色彩を帯びています。

 援用している吉田健一は私が日本文学で最も評価している批評家ですが、彼の批評を十全にわかったとは決して言いませんし、吉田健一の尽きせぬ魅力はやすやすとわかったと言わせないところだと考えていますが、三十路を越え、最近ようやく吉田健一の言わんとしていることが理解できるようになってきました。

「楽園からの逃亡」を脱稿したのは今年1月17日のことですが、編集長からの懇切丁寧な二度に渡る改稿指導によって、この小論には今まで書いたものの中で最も長い時間を掛けて取り組むことになりました。

 今まで書いてきたものは日本ではあまり人口に膾炙していない英米の小説家の「紹介」と言ってもいいものでしたが、今回は日本でもよく知られている『ブライヅヘッドふたたび』を論じたため、「紹介」的側面を極力抑え、「批評」に力点を置きました。私は一作毎にスタイルを変遷させることを自覚的に行っていますが、戯作を意識した前作「デヴィッド・マドセンは黒く笑う」と今作はかなり違ったシリアスなものになった、と思います。

 私はいつも人生で間違ってきました。今も間違いだらけの人生です。これを読んでいるあなたも人生で失敗したことがないとは言わせません。人は必ず間違うものです。人の過ちを描いた小説としての『ブライヅヘッドふたたび』に焦点を合わせ、論じたのが「楽園からの逃亡」です。今回は自らの実存を賭けました。

 この「紹介」から「批評」への移行が起きたことには同世代の文芸批評家、浜崎洋介氏との交友が影響を及ぼしています。浜崎氏に感謝を。

新潮 2016年 12 月号 [雑誌]

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 追記:「楽園からの逃亡」本文には『ブライヅヘッドふたたび』の吉田健一の翻訳を使用しました。原書との照合は行いましたが、英文学者でも翻訳家でもない私が吉田健一の名訳に手を入れる必要は一切ありませんでした。使用した資料群のAmazonリンクを貼っておきます。『ブライヅヘッドふたたび』及び「楽園からの逃亡」の副読本としてお読み戴ければ幸いです。

ブライヅヘッドふたたび

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吉田健一

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